東京高等裁判所 昭和44年(う)1563号 判決
被告人 松崎喜一郎
〔抄 録〕
そこで、叙上に認定した事実を前提として被告人の車が前記交差点に進入する直前の情況をみてみると、東藤運転のクレーン車は、完全に右に向きを変え北方清洲橋方面に通ずる道路の中心線の延長線の左側、すなわち西側にその車体の大部分を入れていたわけではないが、同車が前記のとおりの大きさ、重量のもので、通常の乗用車、貨物自動車のような急速な右折の方法をとることができず、交差点の中心点に達する以前から斜め右に向きを変えて徐々に右折する方法をとることがやむを得ないことであり、その車体の大部分は東西に走る道路の中心線の延長線の右側、すなわち北側に斜めに入つており、西方からの直進車、とくに被告人の車のように道路中心線寄りを走つていた直進車の進行を阻む状況になつていたのであるから、被告人の車が右交差点に進入する直前の状況を基準として考える限りにおいては、右クレーン車は道路交通法第三七条第二項にいわゆる「既に右折している車両」というに妨げはなく、被告人の車が、右クレーン車の進行を妨げてはならない場合であつたのに、直進してこれに衝突したこととなり、本件が被告人の一方的過失によつて発生した事故であることは疑を容れないかの如くであるが、それ以前の段階を問題とし、被告人の車とクレーン車とが相互にその存在を認めてから後の前記のとおりの双方の進行過程を仔細に検討し、右交差点における東西の信号が青信号で、本来直進車の進行が許容さるべき場合であつたこと、東藤の運転した車が、通常の乗用車、貨物自動車のように交差点の中心点において小回りをし、その後急速に交差点を通り抜けることができる車であれば、彼我の距離からして、東藤が右折を開始し継続したことは相当であつたであろうが、それが前記のとおりのクレーン車であり、特殊な進行方法で道路中心線の延長線の右側に入り、右折して交差点を通り抜けるまでには、時速一〇キロメートルとしても、少くとも七、八秒は要することが予想された場合であること、被告人の車は、制限速度に違反してではあるが、時速六〇キロメートル位の高速度で進行していたものであり、右のことは、東藤としても、交差点に入つて間もなく認識できた筈のことであることなどを考え合わせてみると、東藤が交差点に入つた直後一〇〇メートルないし一一〇メートル位前方に被告人の車を認めた際、これが交差点の中心部に達するまでにクレーン車が右折を完了することができると判断し、進路を斜右にとつて進行し、車首を中心線延長線の右側に入れたことは、本件道路の最高制限速度が時速四〇キロメートルであることでもあるから、非難される余地のないことであるとしても、それが二、三台の直進車をやりすごすため減速することを余儀なくされた後においては、被告人の車の方は依然として高速度で直進して来るわけであり、その進行状況は東藤としてもこれを認識することができた筈であるから、その段階の問題としては、道路交通法第三七条第一項に従い、被告人の車に進路を譲り、右折を中断すべき場合であつたといえないことはないのであつて、東藤の側にも、被告人の車の進行状況についての注視を怠り、右折を継続した過失がなかつたということはできない。従つて、本件事故は、原判決認定のとおりの被告人の過失と、東藤の右のとおりの過失とが競合して発生したものというべきであるが、いずれの過失が重大であるかといえば、道路交通法第三七条第一項の規定に違反はしているといえないことはないものの、前記クレーン車のような大きな車がウインカーを点滅して右折の合図をしながら徐々に右折しつつあることを現実に前方に認めながら、その動向を十分注視せず、その動向に応じて何時でも停止することができるように減速することもなく、制限速度違反の時速六〇キロメートルの高速度のまま直進して、クレーン車の左前部に激突した被告人の過失の方がむしろ大きいものというべきである。
(江里口 上野敏 横地正)
(注、本件は量刑不当で破棄)